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名古屋高等裁判所 昭和24年(控)1128号 判決 1950年3月31日

被告人

安田宅郞

主文

原判決を破棄する。

被告人を懲役二年に処する。

原審並当審に於て生じた訴訟費用は、全部被告人の負担とする。

理由

弁護人岩川勝一の控訴趣意第一点について。

(イ)  起訴状に記載しなければならない被告人の氏名は、必ずしも審判を受くべき当該被告人の固有の氏名に限られるものでなく、当該被告人を特定するに足りるものであれば、何等妨げなきものと解するを相当とする。今之を本件起訴状に付いて観ると、同起訴状には被告人の氏名として、安田宅郞と記載されて居る外、其の年齢、職業、住居、本籍が各記載されて居て、是等に依れば、本件に付審判を受くべき当該被告人を優に特定するに足り、然かも本件訴訟記録に徴するも、本件公訴提起の手続に違法の廉あることは毫も之を発見し得ない。然らば之と見解を異にする所論を前提とする本論旨は到底採用に由なきものとして排斥する。

(ロ)  職権を以て、原判決の理由の当否に付いて調査すると、原判決は其の理由冒頭に於て、被告人は昭和十九年九月一日御嵩区裁判所に於て戦時窃盜罪に依り懲役一年六月、同二十年十月勅令第五百八十号に依り懲役一年一月二十日に変更、同二十三年五月十三日中津簡易裁判所に於て窃盜罪に依り、懲役一年二月、同二十四年三月九日中津簡易裁判所に於て窃盜罪に依り懲役一年六月に処せられ目下服役中の者なる旨を判示し、次いで原判示一、二、三の各窃盜事実を判示した上、之が法令適用の分に於て累犯加重に関する刑法の各条章を説示して居る。然るに前記のような原判決の理由冒頭に於ける判示によつては、被告人が同各懲役中孰れの分に付其の執行を受け終つたものであるか否かが不明である許りでなく、果して右懲役中孰れの分が原判示各事実と累犯関係に在るものであるか否かも之を知るに由がない。之を要するに原判決は被告人に対し累犯加重を為して居るに拘らず、其の理由を附して居ない違法があるものと謂わなければならない。

弁護人岩川勝一の控訴趣意第一点

本件記録を閲覽するに検事の証拠として提出したるものは被告人の供述書である。その供述書は昭和二十四年三月二十九日大井長島組合警察署に於ける供述書、その他の供述書であるがその供述書によれば被告人はその署名に於て「ヤスダタクロウ」と署名し検事の起訴状によれば安田宅郞と記載しあり本件被告人の控訴申立書によれば安田卓郞となつている。

「ヤスダタクロウ」を音讀すれば安田宅郞に通ずるもこの「ヤスダタクロウ」は安田宅郞と同一人なりとの証明がない、又この安田卓郞であるとも思はれるから本件は人違いである。よつて「ヤスダタクロウ」安田宅郞、安田卓郞とが同一人であるということを証明せずして安田宅郞として公訴提起の手続をなしたるは刑事訴訟法に違反するものである。

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